第9回『梅支度(うめじたく)』〜梅ジュース編〜
梅ジュースを作るようになったのは、長男が小学校に入学してからである。
夏休みの間中、学童クラブで過ごす彼は水筒と弁当を持参している。暑い日差しのもと、どんなに昼寝をしなさい、部屋で遊びなさいと言っても校庭で日がな一日サッカーや野球をしているのですと、指導員の先生が教えてくれた。子どもは遊びが仕事。まあそれもしかたがないですねと首をすくめながら。
言っても聞かない息子のために、少しでも夏バテしないよう思いついたのが、梅ジュースだ。梅のクエン酸と酢を補給していれば、夏の校庭でも、なんとかなるだろう。
ところが1年目は発酵してしまって大失敗。1キロの梅を台無しにしてしまった。2年目は、分量も梅の実を取り出すタイミングも慎重にした結果、大成功。息子はこれが楽しみでますますはりきって学童クラブに行くようになった。
5年生の今はいっぱしに、青梅の載った生協のカタログを見て「ああ、今年もこの季節がやってきたなあ〜」と、季節を感じる風情でひとり悦に入っている。そして、1年生の妹の分もあるから去年の2倍は作ってくれとリクエストを忘れない。
梅雨は気持ちも湿りがちだけど、我が家では青い実が元気を与えてくれる希望のシンボル。ガラス瓶の中から、楽しい夏の到来を伝えてくれる。
3週間後。梅雨が終わり、1学期の通知票を手渡される頃、氷砂糖と青い実は透き通った黄金色の液体になり、おいしいジュースに仕上がる。
こどもたちはそれをちびりちびりと薄めては飲み、毎朝嬉しそうに水筒につめて持ってゆく。
そしてきっかり1ヶ月後、ジュースはなくなる。ガラス瓶の底がついたら、夏休みは終わり。梅ジュースの減り具合と、子どもの顔の曇り具合は見事に比例していて、「あーあ、終わっちゃった」と言う頃にはきまって、机の上には大量の宿題が残っており、しょげかえる。それを3日ほどで片づけると翌日は2学期の始業式。
3キロの梅ジュースと、1キロの梅酒を目分量で漬けられるようになった今は、「今年こそ梅ジュースが終わる前に、やつの宿題が終わりますように」と心の中で祈りながら蓋をする。それもまた梅支度の段取りのうちなのだ。