■2004.10.22
第6回『ミルクガラス』
夏に、「ふたつ星文庫」という筆名で、友人とアメリカンガラスウエアの本を書いた。オールドパイレックスや、日本ではあまり知られていないヘーゼル・アトラス、フェデラル社のものをとりあげた器の本だ。すると、「それらのコレクターですか」と、ときどき聞かれるようになった。そのたびに、いいえ、好きでいくつかは持っていますが、そういうわけではないんですよ、と答えている。ではなぜこの本を書いたのか。
そのへんの率直な気持ちを書いた原稿(本書の巻頭言)があるので、ここに転載したい。50年代のガラスウエアについて書いているが、根底に流れている思想のようなものは、暮らしや仕事や生き方すべてに通じるような気がして、読み返すと気持ちが新しくなる。
滞りがちな本欄の更新を、著書原稿で埋めるのはいかがなものかとも思うが(笑)、自分の産んだ子を一人でも多くの方に読んでいただけたらそれは本望なので、ご容赦いただきたい。
その手にどっしりとした存在感をもたらす厚さ。コーヒーがぼんやりと透けて見える独特の乳濁色。素朴な味わいのある、アメリカの古いガラスの器は、長く使っても飽きない不思議な魅力がある。
一九一五年、アメリカ・コーニング社が開発した理化学用器具はパイレックス(PYREX)と命名された。「ガラスの熱(PYRO)の王様(EX=王様を意味する言葉の接尾語)」という意味をもつ。高温に耐えられるというそのブランドの技術は、すぐに食器にも応用されるようになった。世界初の耐熱ガラス食器はこうして生まれ、やがて世界中に広まった。
色を吹き付けたり、練りこんだり、プリントしたり、表面にエンボス加工をしたり……。一九二○年代から六〇年代、パイレックスに続いてアンカーホッキング社のファイヤーキングを筆頭に、さまざまな会社が耐熱ガラス容器の製造に取り組み、そのデザインは百花繚乱、ミッドセンチュリーの遺産を無数に生み出した。そして、いつしか忘れ去られていった──。
つい何年か前まで、祖母や祖父の家で、透明ガラスにひまわりやデイジーの花模様がついたパイ皿と、不意に出くわしたものだった。それは私たちに不思議なノスタルジーを引き起こしたけれど、それ以上には、このどっしりしたミルクガラスの器の魅力を再確認する機会をもたずにいた。
しかし、九〇年代、アメリカから飛び火するように日本でも、ファイヤーキングのコレクターズブームが起こる。当然の宿命として、価格も高騰。ウッディなカントリー調の食器棚に、ジェダイのファイヤーキングマグなどが燦然と並ぶ様をみて、私たち二人はわずかな違和感を覚えていた。
そもそも数十年前までは、アメリカ郊外のひなびたロードサイドのカフェや、バーガーショップなどで使われていたもの。少々乱暴に扱っても割れないし、たっぷり入って機能的で、電子レンジやオーブンに入れても平気。つまり、本来はもっと大衆的なもので、大事に飾っておくものではなかったはずなのに……。
もうひとつの違和感。それは途切れることのない小さなブームによって現れては廃れていく「ブランド信仰」みたいなものに対する拒否感といえばよいだろうか。ファイヤーキングは、もちろん大好きだ。しかし、この時代にアメリカで作られた耐熱ガラス容器はファイヤーキングだけではない。もっと他にもかわいかったり、美しかったり、ポップだったり、キッチュだったり、ユニークで愛すべき器がたくさんある。そういう隠れた名手たちを、一つでも多くご紹介したい。光をあててやりたい。
本書は、そんなお節介な親心にも似た目線で企画したものである。そこで日本でも価格が法外に高くなく、使いやすく、魅力的なデザインをしているパイレックス、ヘーゼル・アトラス、フェデラルの三つのブランドを中心に構成してみた。
使ってこそ楽しいアメリカンジャンクの魅力を、ふたつ星文庫という生活者の目で紹介していきたい。ひとつでもあなたのお気に入りがみつかったら最高にうれしい。(『ジャンク・ウエア』ふたつ星文庫著/平凡社)
ジャンクショーやショップでひとつひとつ買い求めたオールドパイレックスのカップ。
握りやすい持ち手のフォルムと、紅茶や珈琲が透ける様をじっとながめているのが好きだ。
(photo/K.ohdaira)
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