■2005.05.08
第8回『魅惑のバターナイフ』
高いものはひとつも持っていないが、バターナイフをみるとつい吸い寄せられるように手にとって、ためつすがめつしてしまう。
子どもの頃、マーガリンをたっぷりパンに塗るコマーシャルが繰り返し流れていた。軽く焦げ目の付いた食パンに、あんなにたっぷり塗るのかと、まだ見ぬアメリカ(なぜかアメリカのメーカーだとすぐにわかった)の豊かな朝食の風景を思い浮かべた。
母はすぐにそのマーガリンを買ってきて、テレビのようにたっぷりと塗りつけた。そのとき、初めてバターナイフが食卓に登場した。こういう道具ですくいといってパンに塗るんだなあとしげしげとながめた。この国の食器とは、全然形も材質も違うんだな、と。ひょっとしたら、それが子ども心に東洋と西洋の違いをハッキリ認識した最初のできごとかもしれない。
肉を切るのでも、野菜を切るのでもない。パンに塗るだけのために存在する小さくて薄いナイフ。戦後の貧しい時代の話でもないのに、妙にバターナイフは私にとって印象的に映った。
一人暮らしを始めた頃に実家から持たされたのは、引き出物か何かでもらった重い金メッキのもの。杖に花模様のレリーフがほどこされている。ずいぶん長く使ったが、バターやマーガリンなどの中身が減ってくるとナイフのほうが重くなって、容器ごと倒れてしまう。それに、このキンキラ加減はどうも照れくさい。
以来、あれこれ買ってみては、重すぎ、軽すぎ、杖が長すぎ、短すぎ、木のナイフは油がしみて汚れが取れにくいだの、意外と理想的なものに出会えず時が経ってしまった。
ここ最近でちょっと気に入っているのは、スパイラルマーケット(青山)で買った純銅製の薄いもの。杖が四角くて持ちやすく、へらの先が徐々になめらかに薄くなっていてすくいやすい。そして軽い。
バターナイフは、ごく個人的なもので、我が家ではもてなしの場に登場することはほとんどない。いわば非公式の食事の道具だ。だけど、使いやすくてフォルムもキレイで、薄くて繊細なものに出会うと無性に嬉しくなって、ついつい買ってしまう。こんなナイフが食卓にあったら、朝の気分がいいだろうな、くらいの気持ちで買える値段だからこその衝動買いである。
私はまだ、これぞベスト!というものに出会えていないが、素敵なバターナイフを使っている人はきっと、朝ご飯を大事にしている人にちがいないと推測している。これ、けっこうな確率で当たっている気が。
一番下・純銅製のバターナイフ。スパイラルマーケットで購入。
下から2番目・LE FRICHIT PAR STUDIO M'のもの。これでへらの先の幅が
あと1〜2ミリ広いと、使い勝手がいいのに惜しい!
あとのものはどこで買ったか失念。どれも何百円とか高くても2000円以下のものばかり。
安上がりな趣味です。
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