「時代の装置」
メールもインターネットも好きだ。これがないと仕事ができないところまできている。
ちなみに本書は、二〇〇一年から朝日新聞社のホームページasahi.comに連載していたものを中心に加筆、構成している。
そのコラムは、二回大きなリニューアルを行い、ここに載せた原稿の半分はすでに過去ログがない。
いうまでもなく、瞬時に世界に発信できるこの便利なツールは、瞬時に消すことも容易だ。
書くことを生業とする立場で、この瞬時に発信&消去できる時代の装置を相手に仕事をしていると、ときどき独特の喪失
感を味わうことがある。
あんなに手間暇かけて書いたものが一瞬にして更新、消去されてしまうことのむなしさのようなもの。次々新しいことを
上書きするがために、紙を相手にしたときのような責任や気迫がどうしても薄れる。
その手軽さに対するあやうさが自分の中で澱のようにつのり、溢れそうになったとき、この本を作った。
願ったことは、たとえばこんなこと。
ごつごつ、しわしわ、ざらざらと、たしかな手触りのある本を作ろうということ。
ひと文字、ひと文字、紙にしずむ活字のように、人の心に刷り込むように、ていねいに文章をつむごうということ。
この手作りの本がたしかにこの世にあったと、五十年後も百年後も伝えられるような質にすること。
だから、印刷も、造本設計も、人の手の労苦がなるべく伝わるような作り方をした。ふだん、商業ベースの書籍作りでで
きなかったあんなこと、こんなことをおもいきりやってみた。
さて、五十年後にひもといたとき、読み手の心に響くような内容になっているだろうか。
その判断は、今、本書を読んでくださっているあなたに委ねられている。
最後にお買いあげ有り難うございました。
大平一枝
「触覚のある本」
自費出版本とは、通常書店で一般流通しないものをさす。だからこそ、その宿命を生かした本が作りたいと思った。
表紙は「絆創膏」の語感から肌色を、もこもこ具合もパットを思わせる感じで。加工の難しい素材なので、各種エレメ
ントの入ったデザインでテストした結果、面と直線的なゴシックだけのシンプルなデザインとなった。
心、絆、家庭、日常のかけがえのない一瞬の輝き。それら本書のテーマを、白い円で表現した。中身は余白を「間」と
して感じられるよう、そして落ちついて文章を目で追っていけるようにつくった。
かつて、まだお金を自由に使えない頃、やっとの思いで買った装丁の美しい本や、お気に入りの小説を窓辺に積んで置
いたら、日に焼けてしまったことがあった。私は、ゆっくり退色していくその様さえ、楽しんでいたところがある。
本書の紙は、時間とともに周囲から変色を始める。時の流れにまかせて自然に変色していく様子は、その時その瞬間を
享受し、さりげない日常の一瞬に輝きを見出すという本書のテーマとも合致しているのではないかと思っている。 途中
に挟み込まれた透明度の高いグラシン紙など、さまざまな手触りの変化も楽しんでいただけたら幸いである。
無茶で困難な注文に全力で取りくんでくださった荘司プリント荘司さん、吉田製本社長、箔押し職人さん、関わってく
れたすべての方に感謝します。
そして手にとってくださった皆様すべてに素敵な時間が訪れますように。
高市美佳
(編集後記より)
【目次】
間(あわい)
真夜中の絆創膏
貧乏を選んだ人の幸福な暮らし
イヴの訪問者
キッチンタイマーと春
《一服一味》
和三盆
梅酒
甘夏のマーマレード
うどん醤油
[旅の雫]
永遠の旅人 パリ
潔い家 カオハガン
世界でいちばん海に近いバー カオハガン
店番 バリ島
昼寝オジサン バリ島
【こぼればなし】
書籍・エディトリアルデザイナーの高市美佳さんと、仕事が終わったあと、夜中に集まっては知恵を絞りました。
そして、絵や写真を極力省き、心に残る文章と装幀だけの本にしようと決めました。
布のような紙や、お菓子の内紙のようなグラシン紙を使って製作。
これだけ短い時間に集中して取りかかれたのは、ふたりとも、ふだん、発注を受けて出版物を作る側であるがために、
できないいろんなことが、つもり積もっていたからでしょう。
印刷会社、製本会社のみなさんのご尽力で、'05.6.1〜6.16まで開催されたスパイラルマーケットの展示販売に、
ぎりぎりまにあいました。手作業による切り貼りで、ちょっと楽しい仕掛けも作ってみました。
【販売】
本書は下記にて展示販売されます。
巡回展
スパイラルマーケット、 B.B.B.POTTERS 、collabon(コラボン)
セアン、アルファベット、やまほん
(終了しました)
(sold out)販売を終了しました。ありがとうざいました。
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