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「この世界の片隅に」とふたりのおばちゃん。

 過日、『この世界の片隅に』を安部巨匠と観た。巨匠は「途中で席を立てないから」と観る前にトイレに2回も行き、ひざにはハンカチを置いて泣く気満々。その準備の仕方がおばちゃんである。といいつつ私もハンカチ用意。  前に観た『君の名は』は、展開が早すぎるのと構成が複雑すぎるので、おばちゃんは実はよく理解ができなかった。そう言うと、高校生の娘が「そんな感想言う人初めて。ママがズレているだけだからそれ、みんなに言わないほうがいいよ」と。なんで感想言うたらあかんねん、人と違う感想をいおうが言うまいが、その人の自由じゃと、出る杭を嫌う若い世代の生きづらさを憂いた。  で、『この世界の〜』。深く心に刺さりながら、澄み渡った青空の尊さを思う、しみじみと素晴らしい作品だった。なんにつけても、のんちゃん(能年さんの芸名のほうがしっくりくるなあ)の声の演技のすばらしさよ。もう一度観たいなり。こういう形のクラウドファンディングがあるのかと、感銘も受けた。  知人の個展と雑貨店と2軒巡り、最後は「ケーキとお茶をして夕食は家で食べよう」と誓い合いながら、「でもカフェないね」と吸い込まれるように、通りがかりの串カツ屋に入り、ジョッキ数杯飲んだ挙げ句、巨匠は「もっと焼酎を濃くしてくれ」と店員にオーダーするありさまで、けっきょく今日もコーヒーのコの字もないのであった。

2025、1月 『ふたたび歩き出すとき 東京の台所』(毎日新聞出版) 発売

2024、8月 『そこに定食屋があるかぎり』(扶桑社) 発売

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