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けんか綱(つな)

沖縄県南風原(はえばる)町へ。不安だらけのまま、ひとり取材でのりこんだ私に、ある人が1日世話をしてくださった挙げ句、家族の宴会に招きいれてくれた。その後は、「これを見なきゃ、南風原のことはわからないよ〜」と彼女に言われ、22時過ぎから綱引きを見る。喜屋武(きゃん)地区に伝わる夜中のこの祭りは、男達の服がちぎれるほど荒い命がけの喧嘩綱。そんな時間にぞろぞろと人が集まったかとおもったら、突然とんでもない迫力で綱引きが始まり、目を見張った。「すごいでしょ〜」と彼女は誇らしげに笑う。「どんなに喧嘩しても、祭りが終わったらみんなきれいに忘れるんだよ〜」と。そして、「明日、宿で食べて」とおにぎりとスープを。 たった1度しか会ったことのないゆきずりの旅の人間に、ここまでの慈しみを私は施せるか。 彼女にできる唯一のお返しは、目をそらさず、真実に寄り添って書きあげること。重いテーマを前に背筋を伸ばした夜。

2025、1月 『ふたたび歩き出すとき 東京の台所』(毎日新聞出版) 発売

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