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わたしの神様


開高健は言葉にするほどでもない日常の連なりを、鮮やかに文字に切り取る名手だ。 どんなスケールの大きな作品も、日々を見つめる細やかな観察眼と表現力のオリジナリティーは、憧れであり神様なのである。 そういう存在が心にあると、路傍の石ひとつ、電車から見える風景ひとつが変わって見える。神様ならどう描写するだろうと想像するためである。 リレー連載『わたしのそばにある、暮らしの本』 (PHPくらしラク~る♪2020年5月号

)より ──わたしの神様のことを書いた。 没後十数年目、コロナブックス『開高健がいた。』(平凡社)の編集をお手伝いした折、初めてちゃんと読み、気づいたら全作(早世したので著作に限りがある)。 例えば夕日、ひと口のバーボンウイスキー、熟したパイナップルの輪切り。日常の何でもない一瞬が、彼にしか紡げない言葉で彩られ、宝石のように光り輝く一行になる。大げさかもしれないが、わたしには詩と祈りさえ見える。 大岡玲さん選のこの文庫は、彼の魅力をもっとも手取り早く知ることができるお得な本である。 (こんなときなので、本のことを書いてみた。)

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