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別れの予感

 3月の下旬にとうとう小田急線下北沢駅が地下に潜る。同時に、森茉莉が舶来のチョコレートを買い、市川準や竹中直人が映画の舞台にした駅前商店街が消える。  戦後、闇市として賑わったときからずっとかわらずそこにある、最も下北沢らしい路地のひとつだ。  3年くらい前、立ち退きを決めた額縁やさんで1500円の額を買ったら、「ただでいいから持ってって」と言われ、巨大な硝子のショーケースをもらった。「おじさんいらないの?」と聞くと、「もう店はやらないからいいんだ。処分代の方が高く付くから頼むからもらってよ」と懇願されたのだった。  しかし私も引っ越しの時、そのケースを処分してしまった。  建てて壊して、もらって捨てて。人の営みは果てしなくときに愚かだけれど、この商店街が消えるのはことのほかせつない。これほど狭くて猥雑な路地が似合う街はそうそうあるまい。まちがいなく、下北沢の隠れた宝だった。

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