友達の仕事
出版の右も左も分からない、地方の短大を出て別の畑から転職してきた私に、文章の書き方や企画の立て方のすべてを教えてくれたボスがいる。宮下徳延というそのボスが率いる編プロで机を並べていた仲間が、20年を経た今もみなそれぞれがんばっている。今月は、仲間の二人が新刊を出したので買って読んだ。 『
美・薬膳』は、美容ライター岡央知子さんの処女作。江口知子の名で、あちこちに美容記事を書きまくっているこの人は、薬膳を本格的に学び、国際薬膳師の肩書きを持つ。みたいな肩書きよりなにより、むくみちゃん、ひよわちゃん、ほてりちゃんと、難しい中医学を、猿でも分かるように書き換えた翻訳能力が彼女らしい。難しいことを難しく書くより、わかりやすく書くほうが本来、何倍も難しいのだ。ちなみにわたしは「よどみちゃん」と「ほてりちゃん」の掛け合わせ。って、肥満そのものじゃん。 もめそうな会議は熱を冷ますコーヒーと、疲れをとる甘いお菓子がおすすめなど、生活の近いところで使える中医学の本です。 『作家の道楽』は、夢枕獏さんの多彩な趣味と遊びの聞き書き本だ。まとめたのは山本竜也さんで、編プロの同期である。軽く読み始めたら、ぐいぐいと、のパターン。歌舞伎や落語や釣りや書の話が面白かったが、いちばんがつんときたのは、「40歳の時に残りの人生を換算したら、自分は年に10冊書くのであと200冊しか書けない。でも書きたいアイデアが200以上あってショックを受けた」のくだりである。10冊も改めて驚くが、200冊しかの「しか」が、私には衝撃だった。 とはいえ、こんな私でさえも、人生の残り時間と目のしょぼしょぼ具合を考えると、愕然とすることがある。たいして書きのこせないのだ、もうそんなに時間はない。 開高健は、釣って書いて飲んで、ベトナム行ってイギリス行ってまた書いて、あっというまに逝ってしまった。獏さんにはそうならないでほしい。それにしても、自分なんて全然書ききれても遊びきれてもいないなあ。
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