懐かしい人の手土産
懐かしい人が
saveurのバターケーキ、「クレーム・オ・ブール」をたずさえて、
訪ねてくれた。
牧野伊三夫さんが描いたという
黒いパッケージが
なんだか工芸品が入っているような大人のたたずまいで、嬉しく背筋がしゅっとする。
ふわっと舌先で溶けるバタークリームの気品と
新しい実力を知る。今まで生クリーム以下に見がちだったことを詫びたい。
真剣に生きているからジタバタする。そういう人だけが持つまっすぐな瞳の光と、
帰った後の心地よい余韻さえも
10余年前となんら変わっていなくて
ああこの感じと
懐かしいバタークリームのように
あたたかな気持ちになった。
2枚目は、
松本の中劇シネマ。
子どもの頃過ごした街で、
靴を脱いで上がるこの映画館はもうない。
不意に牧野邸で彼の絵を通して再会し、
あまりに懐かしく、最後に見たのは『失楽園』だったと恥ずかしいことまで思い出しながら、たしか編集者にお金を借りるかして
その場で衝動買いした。
美術に疎い私が画家から絵を買ったのはこれ一度きり。中劇は我が家の洗面所にあるので、
もう寂しくないのだ。