思考の杭
映画「ハンナ・アーレント」鑑賞。ドイツ系ユダヤ人でアメリカの女性哲学者ハンナ・アーレントの実話を元にしている。
自ら迫害を受けながらも、ホロコーストという巨悪は、とんでもない狂信者や変質者によって生まれたのではなく、ごく普通に生きていると思い込んでいるごくごく平凡な小市民たち人によって引き起こされたと主張。何百万人も収容所に移送したナチス戦犯アイヒマンもまた、義務を果たすためだけに働いた平凡な小市民であったと雑誌で発表し、世界中からバッシングにあった。
作品終盤、その彼女がしたスピーチは、圧倒的な迫力で、胸が震えた。
中2の娘から、「学ぶ意味ってなに?」とよく聞かれる。ずっと、上手に答えられずにいたが、この映画に非常にシンプルな答を教えてもらった。
人間は思考を止めると、戦争も大量虐殺も簡単にできるようになる。だから、考えることや学ぶことをやめてはならない。
作品を勧めててくれたコラムニストの森優子は、アウシュヴィッツ平和博物館に行って、いかに収容所で働くドイツ人が罪を意識することなく大量殺人を行えたのか、その仕組みに真の恐怖を感じたと語っていた。連行する人間、シャワー室に誘導する人間、ボタンを押す人間、それぞれがユダヤ人にできるだけ苦痛を与えないようにして自分の任務だけを遂行する。そこに虐殺をするという意識がどこまであっただろうかと。
全体主義について、思うことがある。
長く官僚をしていた人の話を聞く機会があった。彼は憲法9条は変えるべきで、日米安全保障条約を破棄するなら日本は軍隊を持つべきであると考えている(私とはまったく異なる考えである)。しかし、どんな席でも、軍隊という言葉を出すとすぐおもむろに嫌な顔をされ、まず議論をする空気にならないと言う。9条を変えるべきと言いかけると、すぐに右翼呼ばわりされて片付けられるらしい。
どんな政治信条であれ、自由にものを言えない社会は怖いと私は思う。
場面展開も少なく、シンプルな構成の映画だったが、思考の深い所に杭を打たれるような作品だった。
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