興奮中
わけあって2年がかりで、昭和30年代までの邦画を観ている。今日で70本目。GWは朝から晩まで。
最初は女優たちの美しさにばかり見とれていたが、暴力も魔法もタイムスリップもセックスもないのに、見る者の目を離させないよく練られた脚本、オープニングの斬新さ、大胆な音楽、男優たちの緻密な演技、10本中9本が「え?ここで終わり?」と思わず叫んでしまう意外にふわっとしたラスト。何をとっても、この時代の映画はおもしろすぎる。
なのに、今日TUTAYAカード更新の際にもらったプレゼントの映画ガイドブックには、100本中2〜3本しか紹介されていない(西川美和さん推薦の成瀬巳喜男監督作『めし』と狗飼恭子さん推薦の吉田喜重監督作『秋津温泉』。この二作、私も大好きだ)。洋画がメインで、なんとも残念であった。
戦争が終わって、貧しいながらも必死になってみんなが働き、ほんの少しずつゆたかになり始めた時代の映画を見ると、震災でたくさんのものを失い、傷ついた今の日本も、きっと立ち直ることが出来ると素直に信じられるようになる。想像していたより、ずっとこの国は貧乏だったし、人々の暮らしはつつましやかだった。
光と影を巧みに演出に利用したモノクロ映画も、ぐいぐいひきこまれる。マンガと黒澤とキタノだけじゃないぞ、すごい映像文化があるのだと、世界の人にもっといばっていいと思う。中学、高校の授業で強制的に見せて、とりあえず日本人なら誰でも小津や成瀬巳喜男、川島雄三くらいは「1回は見たことがある」というふうに、文科省で決めてはもらえないものか。
この興奮を周囲に分け合える人がいないので、激しく悶々としながら、出演者を片っ端からウィキペディアでチェックするのが鑑賞後唯一の楽しみとは淋しい限り。
最近のベスト2作
『巨人と玩具』(増村保造監督、川口浩・野添ひとみ主演)シュールな傑作。キャラメル会社の宣伝部の話。売りあげのために人間が少しずつ狂っていく感じが、ねちっこく描かれている。現代を見透かされたような、不思議で今観ても新鮮な作品だ。
『女が階段を上る時』(成瀬巳喜男監督、高峰秀子主演)。衣装も高峰秀子さんが担当。彼女が扮する銀座のバーのマダムの着物が、モノクロなのにどれも素敵で粋すぎてみとれる。成瀬巳喜男NO.1作品(わたし勝手ランキング)。ぐいぐい引き込まれ、予想外の展開に息を呑む。