巨星


東大文学部中退。
終戦は23歳。
勇ましいものがいいとされるなか
男が染色なんてと、蔑まれる時代だったと語った。
染色工芸家・柚木沙弥郎さん(享年101歳)が差しだした宝物は
数十年前、旅先のサンタフェの街角で買った木のおもちゃ。トラックや牛だった。
「道具もないし、材料もない。その日その日を自分たちの手で、素晴らしくイマジネーションゆたかな、生き生きしたものを作る。エコノミックじゃない。
その時、僕のコルセットみたいなものが取れたんです。おおいに反省もした」
個展による注文がひっきりなしに入り
亡き妻と、制作に多忙を極める真っ最中だった。
時間に追われながらストイックに追求する創作の姿勢が
自らを窮屈にしていたと気づく。
「貧しい国々で見たこのフォークアートのと出会いが、自分の転換期になりました」
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『あの人の宝物』(写真・本多康司さん)
『紙さまの話』(写真・小林キユウさん)
各 誠文堂新光社
輝かしい功績の隙間にこぼれ落ちそうな
柚木沙弥郎さんの
来し方歩んできた道を
名もなき玩具や
インドのブロックプリント、
パリから持ち帰ったポールのバケット袋を通して
綴った。
(写真家お二人がしみじみと美しく、それぞれの世界観を投影しながら撮影している)
柚木さん、名もなき書き手にも
真摯にむきあってくださり
ありがとうございました。

