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邂逅

  • 執筆者の写真: kazue oodaira
    kazue oodaira
  • 4月27日
  • 読了時間: 2分



当時の取材は、電話とファックス、時々手紙で依頼するという具合だった。

著書は2冊しかない。それもインテリアやライフスタイルと、なんの関係もないテーマだ。

実績もない、無名の駆け出しライターの著書に出たところで

雑誌と違ってなんの宣伝にもならない。

牧野伊三夫さん、猿山修さん、牛窪妙子さん、吉田耕治さん、MITSUさん…。

見ず知らずの私の企画書に心を寄せ、

面白いと思ったから、というただ一点で快く取材を受けてくださった方々によって、「ジャンク・スタイル」(平凡社)という本が生まれた。

9刷は、自著の中で未だに越えられていない。(もっと頑張れ自分)

そのなかでも、大川雅子さん (APOC)に

依頼した日のことは、とりわけ

強烈に心に残っている。

緊張しながら、おそるおそる突然電話をかけ、

概要を説明し、企画書を送るための

ファックス番号をお聞きする。

送信後、すぐファックスで快諾のお返事が来た。

と、数分後に、ジジジ…と、もう1枚ファックスが。

“その日、デンマーク大使館で家具のイベントがあります。よかったら取材後、ご一緒にいかがですか。

一人より、あなたもご一緒してくれたら

私も嬉しいので”というようなことが書かれていた。

取材者への、心の開示のしかたに痺れた。

その時点で私とまだ会っていないのだ。

この人なら胸の奥まで入り込んでインタビューできる、と直感的に思った。

どれだけ安堵したことか。

今、ごくたまに私自身が取材を受けることがある。

一旦引き受けたお相手には

できるだけ丸腰で

できるだけ丸裸で

自分をお任せすると、

心に決めてのぞんでいる。

それはあのとき、泣きたいほど嬉しかった雅子さんの対応のまねである。

22年経た今も

どちらからともなく、ポツンと連絡取り合ってはご飯食べましょう、となる。

取材がきっかけで、ここまでお付き合いが続く人はそういない。

昨日もそんな夜だった。


(写真)

ご家族も、

あまりメディアに出されていなかったプライベートのリビングも、

片付けないでくださいのお願いも、

「うんわかったー」と笑って

応じてくださった。






 
 

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