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G騒動

食事中、突如体が凍り付き、テーブル下の1点を凝視する私を見て、 娘が「もしかしてG?」。 「GだよっG!」。震える声でこたえる私。 ゴキブリという語感さえ苦手で、Gと呼んでいる。 そこから大騒ぎだ。 早く帰ってきてと夫に電話したいが、携帯のある場所までGを越えないと行けない。 狙いを定め、殺虫剤のボタンを押すと ひらりと怖ろしい速度で向こうに行く。 でもそこから動かない。 2メートル離れたところで抱き合いながら震える我々。 20分ほど見合った末に、娘が「・・・ねえ、あれ本当にG?」。 「Gでしょ。黒いもん」 「でも動かないよね」 「え・・・」 そっと近寄り、よくみたら枯れたバラの花びらだった。バラって。この20分の動悸息切れ、にらみ合いはなんだったのか。 とんだ老眼だよ、という目で娘は霧の摩周湖のような深いため息をつき、だまって食べかけの器を下げていた。

2025、1月 『ふたたび歩き出すとき 東京の台所』(毎日新聞出版) 発売

2024、8月 『そこに定食屋があるかぎり』(扶桑社) 発売

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