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惨事なのになんだか笑える病

人様の台所を訪ねる取材をしていると、土日になることが多い。 7年間『東京の台所』の連載をしている関係で、仕事で潰れることが多かった土日が、今日は久しぶりにどちらもオフ。 「あ〜気が楽だわ〜」と近くの喫茶店で朝、優雅にコーヒーを飲み、自宅に帰って洗濯をしようとかごを持ったら、ピキッ。感じたことのない激痛に、その場で撃たれたみたいに仰向けに倒れ込んだ。 娘に脚を持ってもらい、バンザイの格好で遺体の運搬のようにズルズルと寝室に連れて行ってもらう母。 未経験でもわかった。これはギックリ腰だ。 それから死体状態で車に乗り、整体院へ。 それにしても、なんでこの病名なんだろう。 「パンツ履かせて」「枕動かして」となにか頼むたびに家族が、ぷぷっと笑いをこらえているのがわかる。 寝たきり生活になり、夜、娘から「むしゃくしゃするからママを飲みに誘おうと思ったけど、要介護5だって思い出してやめた」と言われた。 違いますから。ギックリ腰ですから。 週明けに仕事をする編集者に状況を伝えると「大、ぷぷっ、丈夫ですか」。 きっと、この命名の響きが決定的にいけないんだと思う。とぼけていて、ちょっと痛い程度の軽さ、かつどことなく高齢者感が漂う(年齢は関係ないらしいが17歳のギックリは聞いたことがない)。急性腰骨神経症みたいな名前だったら、ぷぷっがないのに。ま、自分でもちょっと笑えるんだけどさ。

(写真) 緑の手を持つ安部巨匠が植え替えをしてくださった植栽。前日は私も鉢をグイグイ持ち上げられるくらい元気ハツラツだったのに。

2024、5月新刊 『こんなふうに、暮らしと人を書いてきた』(平凡社) 

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